愛犬・愛猫のおなかが膨らんで見えたり、呼吸が早くて苦しそうにしていたりすると、とても心配になりますよね。実はこうした変化は、おなかや胸の中に水がたまっている「腹水」「胸水」のサインである場合があります。
一見元気そうに見えても、原因によっては命に関わることもあります。早めに動物病院を受診し、適切な検査と治療につなげることが大切です。
今回は、腹水・胸水の基本、気づきやすいサイン、考えられる原因、治療の流れについて詳しく解説します。


■目次
1.腹水・胸水とは?体内に水がたまる仕組み
2.見た目や動きの変化で気づけるサイン
3.主な原因|腹水・胸水を引き起こす病気
4.診断と治療の流れ|「なぜ水がたまるのか」を探る
5.まとめ
腹水・胸水とは?体内に水がたまる仕組み
おなか(腹腔)や胸の中(胸腔)には、本来ほとんど水がありません。臓器同士がスムーズに動けるよう、ごく少量の液体が保たれているだけです。
しかし、炎症・腫瘍・心不全・肝臓の機能低下など、体のどこかに異常が起こると「血管の中にとどまるはずの水分が外へ漏れ出す」または「通常なら回収される水分がうまく戻らなくなる」といった変化が起こり、余分な水がたまってしまいます。
こうして液体がたまった状態を、おなかであれば「腹水」、胸であれば「胸水」と呼びます。
「水がたまる」と聞くと重い病気を連想する方もいらっしゃるかもしれませんが、原因や背景はさまざまです。早めに気づいて治療を始めることで、改善できるケースも多く存在します。
見た目や動きの変化で気づけるサイン
腹水・胸水を早めに見つけるために、次のようなサインに注意してみてください。
<腹水のサイン>
・おなかが張っている
・体重が増えてきた(脂肪ではなく水の可能性)
・元気がない、食欲が落ちてきた
腹水の場合、おなかがふくらんで見える一方で、触ると張りがあったり、動きにくそうな様子が見られることがあります。体重の変化と合わせて気づけることも多いため、日頃からの観察が役立ちます。
▼犬や猫の腹部膨満についてはこちらで詳しく解説しています
犬や猫のお腹が張る?ふくらんでいる?考えられる病気や原因と受診の目安を解説
<胸水のサイン>
・呼吸が速い・浅い
・以前より動きが鈍くなった
胸水の場合、呼吸の変化が特に分かりやすいサインです。呼吸の異常は命に関わることも多く、できるだけ早い受診をおすすめします。特に猫が口を開けて呼吸している場合は、危険な状態であることが多く、早急な受診が必要です。
▼犬や猫の呼吸困難についてはこちらで詳しく解説しています
犬や猫が呼吸困難?|呼吸が速い・苦しそうなときの原因と病院に行くべき判断基準を解説
一時的に見える症状であっても、その後悪化することがあります。「様子を見ても大丈夫かな…?」と迷ったときは、早めに相談していただくと安心です。
主な原因|腹水・胸水を引き起こす病気
腹水や胸水は“それ自体が病気”ではなく、体のどこかで起きている異常を知らせるサインです。原因によって治療も経過も大きく変わるため、ここでは「どういう仕組みで水がたまるのか」をイメージしやすいように整理してお伝えします。
・肝疾患(肝炎・腫瘍・線維化など)
肝臓はアルブミン(血管内に水分をとどめるタンパク質)をつくる重要な臓器です。肝機能が低下するとアルブミンが減り、水分が血管外へ漏れ出やすくなることで腹水が生じます。
・腎疾患(タンパク漏出性腎症など)
腎臓からタンパク質が失われることで血液中のアルブミン濃度が低下し、水分が外へ漏れやすくなります。腹水・胸水のどちらにつながる場合もあります。
・タンパク漏出性腸症(PLE)
腸の炎症やリンパの異常によりタンパク質が失われ、血管内に水分を保持できなくなることで腹水・胸水を引き起こします。
・心不全(心臓の働きが低下した状態)
心臓が十分に血液を送り出せなくなると、血流が滞り、水分が血管の外に漏れやすくなります。その結果、腹水や胸水がたまることがあります。
・乳び胸
リンパ液(乳び)が胸腔内に漏れ出る病気で、胸水の原因となります。
・膿胸(感染性胸膜炎)
胸腔が細菌感染を起こし、膿が胸の中にたまる状態です。発熱や呼吸の変化が見られることもあります。
・腫瘍(がん)
腫瘍のできる場所によっては、腹部の血流やリンパの流れが妨げられて腹水がたまったり、胸のスペースを圧迫して胸水が増えたりと、症状の出方が変わります。
・出血(内出血)
おなかや胸の中で出血が起きると、その血液がたまって膨らみとして表れることがあります。
・フィラリア症
心臓に寄生するフィラリアが血流を妨げることで、腹水や胸水が生じることがあります。
▼犬のフィラリア症についてはこちらで詳しく解説しています
【獣医師監修】犬のフィラリア症の予防と治療|感染すると何が起こる?
・FIP(猫伝染性腹膜炎)
猫で多く見られる病気で、炎症によって腹水・胸水が急速にたまるタイプがあります。
▼猫のFIPについてはこちらで詳しく解説しています
猫の元気がない、食欲がない?|猫のFIP(猫伝染性腹膜炎)について
このように、腹水・胸水の背景には多様な原因があり、見た目だけでは判断がつきません。
同じような症状でも、まったく異なる病気が隠れていることも少なくないため「なにか変だな」と感じたときに早めに相談していただくことが、適切な治療につながる大切な一歩になります。
診断と治療の流れ|「なぜ水がたまるのか」を探る
腹水や胸水が疑われるとき、まず大切なのは 「どこで何が起きているのか」 を正しく見極めることです。見た目が似ていても原因はさまざまなので、段階を踏んで丁寧に調べていきます。
▼問診・身体検査
飼い主様から伺う「いつから?どんな変化?」という情報は、診断の出発点です。
身体検査では、呼吸の音やおなかの張り、脱水の有無など、全身状態を細かく確認します。
▼各種検査
問診・身体検査で得られた情報をもとに、必要な検査を組み合わせて進めていきます。
・画像検査(レントゲン・エコー):腹水・胸水の量や位置、臓器の異常を確認
・血液検査:肝臓・腎臓・心臓などの働きや、体のバランスの乱れをチェック
・腹水・胸水の検査(穿刺):たまった水の性質を調べ、異常の“手がかり”を確認
▼治療
必要に応じて水を抜き取りつつ、水がたまる根本的な原因に向き合うことが治療の中心となります。
<代表的疾患の治療例>
・心不全:利尿剤などで心臓の負担を軽減
・低アルブミン血症:食事療法や必要な薬でバランスを整える
・炎症・感染:抗炎症薬・抗生剤の投与
・全身状態が悪いとき:点滴や酸素室などの支持療法
当院では、検査の意図や結果はその都度丁寧にご説明し、飼い主様と相談しながら治療方針を決めていきます。気になることやご不安があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。
まとめ
腹水や胸水は、体の中で起きている異常を知らせるサインです。一見同じように見える症状でも、背景にある病気は多岐にわたるため、早めの受診がその子の負担を減らし、改善のチャンスにつながります。
「おなかが張っている気がする」「呼吸が少し苦しそう」といった小さな気づきが、愛犬・愛猫の命を守るきっかけになります。気になることがあれば、些細なことでも構いませんので、お気軽にご相談ください。
■関連する病気はこちらで解説しています
・犬や猫の皮膚が黄色い!|黄疸の原因と早期発見のポイント
・犬や猫の水の飲みすぎ・おしっこの増加に注意|多飲多尿の原因と対処法を獣医師が解説
・犬や猫の貧血|気づきやすい症状と原因疾患・受診の目安を解説
・「最近ちょっと痩せた?」が気になったら|犬や猫の体重減少の原因と受診の目安
埼玉県狭山市の「かすみペットクリニック」
