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【獣医師監修】犬のフィラリア症の予防と治療|感染すると何が起こる?

「フィラリア症」という言葉を耳にしたことがある飼い主様も多いかと思いますが、具体的にどのような病気かご存じでしょうか。フィラリア症は蚊を介して感染する寄生虫病で、放置すれば命に関わる病気です。しかし、適切な予防を行うことで十分に防ぐことができます。

今回は、フィラリア症の仕組みや予防法について、飼い主様に知っていただきたいポイントを詳しくご説明します。

■目次
1.フィラリア症とは?
2.フィラリア予防のスケジュール
3.もしフィラリア症になってしまったら
4.治療と予防の違い
5.予防のための具体的な対策
6.フィラリア予防前の血液検査について
7.まとめ

フィラリア症とは?


フィラリア症は、「犬糸状虫(フィラリア)」という寄生虫が犬の体内に寄生し、主に心臓や肺動脈に影響を及ぼす病気です。成虫は30cmにも成長し、血液の流れを妨げることで心臓や肺に大きな負担をかけます。

この病気の最大の特徴は、蚊を媒介として感染することです。感染した犬の血液を吸った蚊は、体内にフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)を取り込みます。その蚊が次に健康な犬を刺すと、フィラリアの幼虫が蚊から犬の体内に移動し、血管を通じて成長を始めます。やがて成虫となり、重大な健康被害を引き起こすのです。

フィラリア予防のスケジュール


お住まいの地域によっても異なりますが、フィラリア予防は4月または5月から、12月までの間に行うことが一般的です。その理由は、「蚊の活動時期」と深く関係しています。

<蚊の活動時期と予防期間の関係>
蚊は気温が15℃以上になると活動を始め、20℃以上で特に活発になります。そのため、日本では蚊が活動し始める4月〜5月から予防をスタートし、12月まで継続することが推奨されています。

<予防期間を守る理由>
日本では12月に蚊を見かけることはほとんどないのに、なぜ12月まで予防を継続する必要があるのでしょうか。それはフィラリアの幼虫が、蚊に刺されてから1〜2ヶ月かけて成長するためです。
フィラリア予防薬は体内に侵入した幼虫を駆除する働きがあるため、蚊を見かけなくなってからも投与を継続することで、「体内に残っているかもしれない幼虫」を駆除することができます。

<地域ごとの違い>
暖かい地域(九州・沖縄など)では蚊の活動期間が長いため、通年予防が推奨される場合があります。一方、寒冷地でも気温の急変があるため油断は禁物です。かかりつけの動物病院で地域に合った予防スケジュールを相談してください。

もしフィラリア症になってしまったら


フィラリア症に感染が進むと、愛犬の身体に大きな負担がかかります。

<初期症状と進行>
初期症状は目立たないことが多いですが、感染が進行すると以下の症状が見られることがあります。


運動を嫌がる
呼吸が荒くなる
お腹が膨らむ(腹水)

これらの症状が現れた場合は、早めに動物病院に相談しましょう。

<肺血栓のリスク>
フィラリアが肺動脈に詰まることで肺血栓を引き起こすことがあります。その場合、呼吸困難や突然死につながる恐れがあるため、注意が必要です。

<治療方法>
フィラリア症の治療は段階によって異なりますが、重度の場合は外科的な摘出手術が必要になることがあります。大学病院や高度医療を扱う動物病院で、カテーテルを使用し、心臓や肺動脈に寄生する成虫を取り除く手術が行われます。

他に、抗生物質を用いた投薬治療があります。この治療法は、フィラリア虫が共生しているボルバキアという細菌を除去することで、フィラリア症の進行を遅らせる目的で行われます。

<予後について>
フィラリアの寄生数が軽度で、投薬のみでコントロールできた場合の予後は良好です。
一方で、寄生数が重度で心不全や肺塞栓症などを併発していた場合は治療が成功しても、心臓や肺にダメージが残る場合があります。その場合、定期的な診察と生活管理が欠かせなくなります。

治療と予防の違い


フィラリア症は、進行状況によっては治療が難しくなる場合があります。治療には、定期的な通院や検査、投薬が必要になり、場合によっては手術が必要となることもあります。また、治療には高額な費用や長期間の通院が必要となり、愛犬への身体的負担や飼い主様の心身の負担も大きくなります。そのため、そもそも感染を防ぐことが最も重要です。

一方で、予防薬の使用はシンプルかつ効果的であり、治療に比べて費用も安価で、愛犬への身体的負担も少なく済みます。

フィラリア症は予防を徹底することで防げる病気です。発症後の治療はリスクが伴い、愛犬の健康を完全に取り戻すことが難しい場合もあるため、予防が大変重要なのです。

予防のための具体的な対策


<予防薬の種類と特徴>
フィラリア症の予防薬には、以下のような種類があります。

経口薬(錠剤やチュアブル)
おやつ感覚で与えやすいタイプです。飼い主様がご自宅で月1回の投与を行います。

スポットタイプ(滴下薬)
首の後ろに滴下するタイプで、飲み薬が苦手な犬にも適しています。こちらも飼い主様がご自宅で行います。

注射タイプ
動物病院で投与し、1年に1回で予防が可能です。継続投与の手間を省ける点が魅力です。

<確実な予防のためのポイント>
フィラリア症を確実に防ぐには、予防期間を守ることが重要です。また、毎年血液検査を受けることで、感染の有無を確認しながら安全に予防を進めることができます。

<生活環境での注意点>
愛犬を蚊の感染リスクから守るため、日常生活での環境整備も大切です。散歩では蚊が多い場所を避け、室内への蚊の侵入を防ぐために網戸や蚊取り対策を徹底しましょう。また、自宅周辺の清掃をこまめに行い、蚊の発生を抑えることも予防に有効です。

フィラリア予防前の血液検査について


フィラリア症の予防薬を始める前には、血液検査が必要です。

<なぜ検査が必要なのか>
フィラリア予防薬は、体内に侵入したフィラリアの幼虫(ミクロフィラリア)を駆除します。しかし、すでに成虫が寄生している状態で投薬を行うと、大量の幼虫が一度に死滅し、血管内に詰まる危険やアレルギー反応、ショック症状を引き起こすことがあります。そのため、事前の血液検査で感染の有無を確認することが欠かせません。

<検査で分かること>
フィラリア検査では、主に以下のことを確認します。

フィラリア感染の有無
血液中の幼虫(ミクロフィラリア)や成虫の存在を調べます。

感染の進行度
感染が確認された場合、進行度に応じた治療方針が決定されます。

健康状態の確認
予防薬を安全に投与できるか、肝臓や腎臓の機能も確認します。

<検査のタイミング>
フィラリア予防の血液検査は、毎年の予防薬を始める前に行います。
前年に予防をしていない場合や、予防を途中で中断した場合、保護犬や新しく迎えた犬で予防歴が不明な場合は特に注意が必要です。また、前年にしっかり予防していても、万が一の感染がないか確認するために、毎年必ず検査を受けるようにしましょう。

血液検査の結果が陰性であれば、予防薬の投与をスタートします。愛犬の体重や健康状態に合わせて、最適な予防薬が処方されます。

まとめ


フィラリア症は、適切な予防を行うことで防ぐことができる病気です。予防を徹底することで、愛犬を命に関わるリスクから守り、健康で快適な生活を送ることができます。

予防の第一歩は、毎年の血液検査で感染の有無を確認し、愛犬の健康状態に合った予防薬を投与することです。また、予防薬を継続的に投与し、生活環境を整えることも欠かせません。かかりつけの動物病院で適切なアドバイスを受けながら、確実なフィラリア予防を実践していきましょう。

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