犬や猫の肺炎は、私たち人間と同じように、命に関わる可能性のある深刻な病気です。
しかし、「少し咳をしているけれど、そのうち治るだろう」と油断してしまうと、症状が知らない間に進行してしまうことがあります。
犬や猫は、体調が悪いことを言葉で伝えることができません。だからこそ、日々の様子を注意深く観察し、小さな変化を見逃さないことが大切です。
今回は、犬や猫の肺炎について基本的な情報や特徴的な症状について解説します。
■目次
1.肺炎とは?
2.症状
3.原因
4.診断方法
5.治療方法
6.予防法やご家庭での注意点
7.まとめ
肺炎とは?
肺炎とは、肺の組織や気道に炎症が起こる病気です。この炎症により、肺が正常に酸素を取り込むことが難しくなり、呼吸が苦しくなるといった症状が現れます。
肺炎の原因にはさまざまなものがありますが、主に以下のようなものが挙げられます。
・感染症:ウイルス、細菌、真菌(カビ)などの病原体によるもの
・誤嚥性肺炎:食べ物や異物、鼻水が誤って気管に入り、炎症を引き起こすもの
・寄生虫:特定の寄生虫が肺に影響を与えるケース
・アレルギーや刺激物:タバコの煙や有害な化学物質などによるもの
犬や猫が肺炎にかかるリスクは、年齢や健康状態、生活環境によって異なります。特に、以下のようなケースでは注意が必要です。
・子犬や子猫:免疫力が未熟で、感染症にかかりやすい時期です。
・高齢の犬や猫:加齢による体力や免疫力の低下がリスクを高めます
上記以外でも病気の治療中やストレスが多い環境にいる場合は免疫力が低下し肺炎にかかるリスクが上がります。
症状
肺炎の症状は炎症の原因や進行具合によって異なりますが、以下のような症状が見られることが一般的です。
・咳
短い咳、乾いた咳、痰が絡んだ湿った咳など、さまざまな種類の咳が現れることがあります。特に、咳が長く続く場合や、咳の音が普段と違うと感じる場合は注意が必要です。
・呼吸困難
息が苦しそう、呼吸が浅く速いといった様子が見られる場合は、肺炎の可能性があります。重症化すると、口を開けて苦しそうに呼吸する、息を吸うたびにお腹が大きく動くといった症状も見られることがあります。
・元気がない
普段よりも動きが鈍い、食欲が落ちている、遊びたがらない、誰かが帰ってきたときにいつも迎えに来るのに迎えに来ないなど、いつもと様子が違う場合も要注意です。
・発熱
感染症が原因の場合、体温が高くなることがあります。触っていつもより体が熱いと感じるときは、体温を確認しましょう。
・嘔吐や吐き気
肺炎により呼吸がくるしくて空気を飲み込み吐いてしまうことがあります。
・チアノーゼ(舌や歯茎が青紫色になる)
症状が進行すると、舌や歯茎が青紫色になることがあります。これは体内に酸素が十分に行き渡っていないことを示しており、非常に危険な状態です。
原因
犬や猫の肺炎は、以下のようにさまざまな要因によって引き起こされます。
<感染症>
ウイルスや細菌、真菌(カビ)などの病原体が肺炎の大きな原因となります。
・ウイルス性肺炎:犬のジステンパーウイルスや猫のカリシウイルスなど、感染力の強いウイルスが肺に炎症を引き起こします。
・細菌性肺炎:免疫力が低下している場合には細菌感染が進行しやすくなります。
・真菌性肺炎:カビや真菌による感染は、特に土壌や湿気の多い環境での接触によって引き起こされることがあります。
<誤嚥性肺炎>
食べ物や嘔吐物、鼻水が誤って気管に入り込むことで、気道に炎症が生じます。
特に高齢や手術後の犬や猫では注意が必要です。
<寄生虫>
肺虫やフィラリア(犬糸状虫)などの寄生虫が肺にダメージを与え、炎症を引き起こします。特にフィラリア予防薬を使用していない場合、感染リスクが高まるため注意が必要です。
<外的要因>
タバコの煙、化学物質(洗剤やスプレーなど)の吸引、あるいはアレルギー反応も肺炎を引き起こす要因となります。
<その他の要因>
免疫不全や慢性的な病気(糖尿病、慢性腎臓病など)がある犬や猫は、肺炎を発症しやすい傾向があります。
診断方法
愛犬や愛猫に肺炎の疑いがある症状が見られた場合、動物病院での迅速な診断が大切です。診断は以下のような手順で進められます。
<問診と身体検査>
まず、飼い主様から愛犬や愛猫の様子について詳しく伺います。咳の頻度や呼吸の異常、食欲や元気がないといった変化が主なポイントです。
また、生活環境や過去の病歴についても確認されることがあります。
<聴診>
聴診器を使い、肺の音を確認します。肺炎の場合、湿った音や異常な呼吸音が聞こえることがあります。これにより、炎症がどの程度進行しているかを把握します。
<レントゲン検査>
肺の状態を詳しく見るための重要な検査です。
・肺が白く曇って見える、気管支がはっきりと映る:炎症が進行しているサインです。
・特定の区域だけが曇っている:誤嚥性肺炎の可能性があります。
レントゲン検査は、肺炎があるかどうかを確認するだけでなく、炎症がどの程度広がっているのかや、肺炎の原因を判断するための大切な手がかりになります。
<血液検査>
感染症の有無や炎症の程度、全身状態を確認します。
白血球の増加やCRP(炎症の指標)が 上昇している場合、肺炎の可能性が考えられます。
<気管洗浄(気管支肺胞洗浄)>
症状が重い場合や原因が特定できない場合、気管内に洗浄液を注入し、それを吸引して病原体を調べる検査が行われることがあります。
ただし、この検査は必ずしもすべてのケースで実施されるわけではありません。
治療方法
肺炎の治療は、原因と症状の重さに応じて適切な方法が選ばれます。
<薬物療法>
・抗生剤:細菌性肺炎の場合、感染を抑えるために使用されます。最適な抗生剤を選ぶため、培養検査を行うこともあります。
また、ウイルス性肺炎が疑われる場合でも、細菌の二次感染を防ぐために抗生剤が処方されることがあります。
・抗真菌薬:真菌性肺炎の場合、専用の抗真菌薬を用いて治療します。
・寄生虫駆除薬:寄生虫が原因の肺炎には、駆虫薬が使用されます。
<酸素療法>
呼吸が苦しそうな場合、酸素室や酸素吸入器を使用して酸素を補給します。この方法は特に重症化した肺炎の治療に欠かせません。
<点滴療法>
食欲が落ち、水分不足や栄養不足が見られる場合には、点滴で必要な水分と栄養を補います。
<外科手術>
異物が原因で炎症が治まらない場合、手術で異物を取り除くことがあります。
肺炎の治療は、早期発見がカギとなります。症状が軽いうちに適切な治療を開始することで、
愛犬や愛猫の負担を最小限に抑えることができます。
予防方法やご家庭での注意点
愛犬や愛猫を肺炎から守るためには、日常生活での予防が大切です。
<健康的な生活環境を整える>
愛犬や愛猫が過ごす空間は、清潔で快適な環境を保つことが大切です。部屋のホコリや汚れをこまめに掃除し、空気清浄機を活用することで空気中の刺激物を減らしましょう。
また、冷えや乾燥は肺炎のリスクを高める要因となるため、室温は20~25℃、湿度は40~60%を目安に管理してください。特に寒い季節やエアコンを使用する際には、加湿器を活用して湿度を保つと良いでしょう。
タバコの煙や強い香りも犬や猫の気道を刺激する原因になるため、これらを避けることも重要です。
<食事管理と免疫力の向上>
バランスの良い食事と適度な運動は、免疫力を高めるための基本です。愛犬や愛猫の健康状態に合った栄養バランスの取れたフードを選び、必要があれば獣医師に相談して食事計画を立てましょう。
運動については、犬は散歩や遊びを通じて体を動かし、猫には室内でのおもちゃ遊びなどを取り入れることで運動不足を防ぐことが大切です。
<定期的な健康チェック>
健康診断を定期的に受けることは、肺炎をはじめとするさまざまな病気の早期発見に欠かせません。年に1〜2回の健診を受けることで症状が現れる前に問題を見つけ、早めに対処することが可能です。
また、感染症を予防するために、ワクチン接種も忘れずに行いましょう。ウイルス性肺炎を防ぐためには、適切なタイミングでの接種が特に重要です。
<誤嚥の予防>
誤嚥を防ぐためには、食事内容や与え方に注意を払うことが大切です。食材が大きすぎるもの、硬くて飲み込みにくいものは避けるようにしましょう。
また、高齢の場合や手術後、あるいは神経疾患や呼吸器疾患がある犬や猫は、特に誤嚥しやすいため、食事の形状を柔らかくする、少量ずつ与えるなどの工夫が必要です。
食事中の姿勢も重要です。可能であれば首が少し上がるような位置で食事をさせることで、食べ物が気管に入りにくくなります。
食べる速度が速すぎる場合は、早食い防止用の食器を活用するのも効果的です。
<他の動物や環境との接触管理>
多頭飼いの場合、咳やくしゃみなどの症状がある動物とは隔離し、感染が広がらないように配慮することが重要です。
さらに、ドッグランや公園などの不特定多数の動物が集まる場所では感染リスクが高まるため、外出後の体調の変化に注意しましょう。
まとめ
犬や猫の肺炎は、初めは軽い症状に見えても、放置すると深刻な状態に進むことがあります。咳や呼吸が苦しそうに見える、元気がないなどの異変があれば、早めに動物病院へご相談ください。
また、健康診断やワクチン接種を定期的に受けることは、病気の予防に欠かせません。普段の生活では、バランスの取れた食事や適切な環境づくりを心がけ、愛犬や愛猫が快適に過ごせる空間を整えてあげましょう。
肺炎は、早期に適切な治療を行えば回復が期待できる病気です。日々の小さなサインを見逃さず、大切な家族である愛犬や愛猫の健康を見守っていきましょう。
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