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犬の認知症を見逃さないために|DISHAAを使ったセルフチェックと対処法

シニア期に入った犬では「夜鳴きが増えた」「トイレを失敗するようになった」「同じ場所をぐるぐる歩く」といった行動の変化が見られることがあります。

これらは加齢に伴う変化のように思われがちですが、実は犬の「認知症(認知機能不全症候群)」のサインである場合もあります。認知症は、できるだけ早く気づき生活環境を整えることで、進行をゆるやかにし、愛犬が“その子らしく”過ごせる時間を守ることにつながります。

今回は、飼い主様が日常の変化に気づきやすくなる「DISHAA分類」を使ったセルフチェック方法と、必要な対処法について詳しく解説します。

■目次
1.人と犬の認知症を比べて理解する|中核症状と周辺症状(BPSD)の違い
2.日常の変化を整理する方法|DISHAAの6つの視点を使ったセルフチェック
3.対処法と治療|早期発見で“その子らしい生活”を守る
4.まとめ|“少し気になる”が受診のサインです

人と犬の認知症を比べて理解する|中核症状と周辺症状(BPSD)の違い


犬の認知症を考えるとき「人の場合と何が違うのか」を少し知っておくと、日常での気づきにつながります。難しい専門用語に見えますが、まずは「症状の出方の仕組み」を整理してみましょう。

<人の認知症は2種類の症状から成り立つ>
人の認知症は、大きく 「脳の障害そのものによって起こる症状」 と 「それに付随して行動として表れる症状」 の2つに分けて考えられます。この違いを知っておくと、犬で見られる変化もイメージしやすくなります。

中核症状(Core symptoms)
脳の神経細胞がダメージを受けることで“直接”起こる症状です。認知機能そのものがうまく働かなくなる状態を指します。

例)
覚えられない、忘れてしまう(記憶障害)
今どこにいるか分からなくなる(見当識障害)
判断がむずかしくなる
言葉がうまく出ない、認識しづらい(失語・失認・失行) など

周辺症状(BPSD)
中核症状が背景にあることで、行動や気分として表に出てくる変化のことです。生活の中で「様子が変わった」と気づきやすいのはこちらです。

例)
徘徊
失禁
睡眠リズムの乱れ
不安が強くなる
攻撃性の変化 など

行動として見えるのは主に「周辺症状」ですが、その背景には「中核症状」の進行が隠れている ——この関係性が、人の認知症を理解するうえでの大切なポイントです。

<犬の場合はどう違う?>
犬は「覚えていない」「判断できない」と言葉で伝えることができません。そのため、中核症状(考える力・記憶の変化)は見えにくいという特性があります。

一方で飼い主様が気づきやすいのは「”周辺症状”にあたる行動の変化」です。たとえば、夜鳴き、徘徊、トイレの失敗といった行動は、その背景に「中核症状の変化」が隠れている場合があります。

このように「犬の認知症は周辺症状から気づくことが多い」という前提を踏まえると、日々の観察がとても大切であることが分かります。

犬の認知症における中核症状と周辺症状(BPSD)の関係を示した図。中央に記憶障害・見当識障害・判断力や理解力の低下などの中核症状があり、周囲に夜鳴き、徘徊、不安、睡眠障害、攻撃性、食欲変化、異食、多動、興奮などの行動変化が配置されている。

日常の変化を整理する方法|DISHAAの6つの視点を使ったセルフチェック


犬の認知症は、病気そのものがゆっくり進むうえに“気づきにくい”という特徴があります。だからこそ 「普段の行動の変化をどう整理するか」 が、早期発見の大切なポイントになります。そこで役立つのが、世界的にも用いられる観察の枠組み 「DISHAA」 です。

<DISHAAとは?>
DISHAAは、犬の認知機能に「どんな変化が起きているか」を6つの視点から整理できる、とてもシンプルな方法です。日々の小さな変化に気づくための“チェックリストのような役割”として活用できます。

明確な診断を行うものではありませんが「最近の変化は気のせい?それとも年齢のせい?」と迷ったときに、気づきを得る“観察のものさし”として役立ちます。

<DISHAAの6つの視点とチェックポイント>
以下がDISHAA分類の6つの視点と、それぞれに当てはまる具体的な行動例です。ぜひ読みながら 「うちの子はどうかな?」 と照らし合わせてみてください。

D:見当識の変化(Direction)
環境の把握や方向感覚の変化としてあらわれます。

急に立ち止まる、迷うような仕草
同じ場所をぐるぐる歩く

I:社会性の変化(Interaction)
家族や周囲への反応が変わることがあります。

呼んでも反応が弱い
触られるのを嫌がる
不安そうに後を追ってくる

S:睡眠リズムの変化(Sleep-wake cycle)
加齢だけでなく、認知症で乱れることもあります。

昼夜逆転
夜に落ち着かず起きてしまう

H:排泄の変化(House soiling)
今までできていたトイレが難しくなるケースです。

トイレの場所を間違える
排泄の回数やタイミングが不規則になる

A:活動性の変化(Activity)
理由のない行動やぼんやりした様子が増えることがあります。

目的なく徘徊する
ぼんやり立ち尽くす時間が増える

A:不安行動(Anxiety)
ストレスや不安が大きくなると起こりやすい行動です。

落ち着きがない、そわそわする
急に甘えん坊になる、離れると不安そうにする

<セルフチェックのポイント>
DISHAAを使うと、ただ「なんとなく違う気がする…」という曖昧な印象ではなく「どんな変化が・いつから・どれくらい」 を整理して見ることができるようになります。気になる行動があれば、6つの視点のどこに当てはまるのかをメモしておくと、診察の際にも状況をより正確に伝えやすくなります。

また、こうして日々の様子を振り返る時間をつくることで「年齢のせいかな?」と見過ごしがちな小さな変化にも気づきやすくなります。ただし、DISHAAはあくまで“観察の補助ツール”です。最終的な判断は獣医師が行いますので、もし一つでも気になる点があれば、早めに相談していただくことが大切です。

対処法と治療|早期発見で“その子らしい生活”を守る


犬の認知症は「どれだけ早く対応できるか」によって、進行のスピードや日常生活の質が大きく変わります。早めにケアを始めることで、愛犬が落ち着いて過ごせる時間をしっかり確保してあげられるケースも少なくありません。

<日常でできるサポート>
認知症が疑われる場合、生活環境を少し工夫するだけでも愛犬の不安をやわらげることができます。

生活環境の調整
夜間に小さなライトをつけてあげる、段差を減らすなど、迷いやすさや転倒のリスクを減らす工夫が役立ちます。

適度な運動や刺激
ゆっくりのお散歩や、においを使った簡単な遊び(知育トイなど)は、脳への良い刺激にもなります。

食事の見直し
年齢や症状に合ったフードに切り替えることで、体の負担が減り、より快適に過ごせる場合があります。

サプリメントの併用
オメガ3脂肪酸など、認知機能をサポートする成分が役立つケースがあります。ただし、サプリだけに頼るのではなく、獣医師の診察と組み合わせることが大切です。

<治療が必要な場合>
不安が強い、夜間の睡眠障害が続くなど、生活に支障が出る場合には、お薬を使って症状を和らげる選択肢もあります。

また、一見認知症と思える行動の変化の裏に、別の病気が隠れていることも少なくありません。たとえば、痛み、内臓疾患、視覚・聴覚のトラブルなどが原因で同じような行動が出ることがあります。そのため、どんなケースでもまずは一度しっかり検査を受けることが大切です。

まとめ|“少し気になる”が受診のサインです


犬の認知症ははっきりとした症状が出にくく、年齢による変化と区別がつきにくいことがあります。だからこそ、DISHAAを活用するなど、日々の様子を観察しながら「いつもと違うかも?」という小さな変化に目を向けていただくことが大切です。

ただし「行動の変化=認知症」とは限らず、まったく別の原因が背景にある場合もあります。かすみペットクリニックでは「なぜこの行動が起きているのか」という変化の裏側にある原因まで丁寧に確認し、愛犬の“その子らしい生活”を守るお手伝いをしています。日々の中で「あれ?いつもと違うな…」と感じることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。

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埼玉県狭山市の「かすみペットクリニック」

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