「たくさん検査をしたのに、結局よく分からなかった」「検査費用が思ったより高くついた」──そんな経験をされたことはありませんか?
実は、それぞれの検査にはきちんとした理由があります。私たち獣医師は、診断学という「病気を見つけるための考え方」に基づいて、一つひとつ意味のある検査を組み立てているのです。
かすみペットクリニックでは、飼い主様が納得して治療に臨めるように、診断の根拠を丁寧にご説明しながら方針を決めていきます。今回は、当院の獣医師がどのように考え、どのような手順で診断を進めているのかについてご紹介します。


■目次
1.獣医師の頭の中|診断は“パズルを解く”ようなプロセス
2.診断に至るための3つのアプローチ
3.診断の2つの方向性|「確定診断」と「除外診断」
4.診断の鍵を握るのは、飼い主様からの「何気ない情報」
5.まとめ
獣医師の頭の中|診断は“パズルを解く”ようなプロセス
診断は、検査の数値を並べて判断するだけの作業ではありません。獣医師は「診断学」という論理的な学問に基づき、情報を整理しながら可能性を一つずつ検証していきます。
<診断の第一歩は「問診」から>
診療はまず、飼い主様からのお話を丁寧に伺うことから始まります。この問診が、診断の方向を決める最も重要なステップです。
たとえば、
「熱っぽい」「食欲がない」「元気がない」
といった情報から、獣医師は頭の中で「Aという病気の可能性は〇%、Bは△%…」というように、いくつかの候補を思い浮かべます。
このように確率をイメージすることを「検査前確率」と呼びます。この段階で、大まかな見立てはすでについており、次の検査は「仮説の確かさを確認するため」のものになります。
<検査で“仮説の精度”を高めていく>
問診で立てた仮説をもとに、必要な検査を行います。
検査結果は「尤度比(ゆうどひ)」という、いわば“検査の結果をどのように読み解くかを考えるための指標”で評価し「やはりこの病気の可能性が高い」「別の原因かもしれない」といったように、可能性を絞り込んでいきます。
この検証を経て、より確かな判断に近づいた状態が「検査後確率」です。つまり、診断は “情報を積み上げて精度を高めるプロセス” なのです。
<診断とは、論理の積み重ね>
情報を集め、仮説を立て、検証し、修正を重ねていく——
診断は、まるでパズルのピースを一つずつ丁寧にはめていくような作業です。
私たちはこのプロセスを大切にしながら「なぜこの検査が必要なのか」「どうしてこの結果が重要なのか」を一つひとつ丁寧にご説明し、飼い主様にも納得していただける診療を心がけています。
こうした診断学の考え方は、多くの獣医師が経験則として実践していますが、それを言語化し、体系的に理解して診療や教育の場で活用している獣医師はまだ多くありません。当院では、この“診断の考え方”そのものを共有しながら、より精度の高い診療を目指しています。
診断に至るための3つのアプローチ
症状の出方や状況によって、診断の進め方にはいくつかのパターンがあります。獣医師はそれぞれのケースに応じて、次の3つの思考法を使い分けています。
① 経験則による「パターン認識」
特徴的な見た目や症状から、経験則で病気を判断する方法です。
たとえば「お腹がふくらんでいる」「毛が薄い」「よく水を飲む」といった症状を聞くと、クッシング症候群などを疑うことがあります。
▶ メリット: 診断までの時間や費用を抑えられる
▶ デメリット: 典型的でない症例を見落とすリスクがある
経験がものを言う手法ですが、この方法だけに頼ることはありません。
② 網羅的に調べる「ミニマムデータベース」
血液検査・尿検査・レントゲンなどの検査を幅広く行い、全体像を把握する方法です。
▶ メリット:体全体の状態を一度に把握できる
▶ デメリット: 費用がかかりやすく、結果の関連性を読み解くのが難しいことも
腫瘍など全身の健康状態を詳しく確認したい場合などに有効ですが、必要に応じてバランスを見極めながら実施します。
③ 仮説を立てて絞り込む「診断推論」
かすみペットクリニックが特に大切にしているのが、この「診断推論(仮説検証型)」です。問診で得た情報をもとに「この病気の可能性が高そう」と仮説を立て、その仮説を検証するために必要最小限の検査を行います。
たとえば、腹水(お腹の中に通常よりも多くの水分・体液が溜まった状態)が見つかった場合でも、
「心臓に問題があるのか」「腎臓の機能低下か」「腸の異常なのか」
といった複数の可能性を一つずつ検証しながら、段階的に診断を進めていきます。
▶ メリット:不要な検査を減らしながら精度の高い診断ができる
▶ デメリット: 情報整理や仮説構築に時間がかかる場合がある
時には多くの検査を行うことで、かえって診断を複雑にしてしまうケースもあります。検査は数ではなく“組み合わせと順序”が大切であり、そこにこそ診断学の真価があります。
私たちはこの「診断推論」を軸に、できるだけ動物への負担を少なく、かつ納得感のある診断を目指しています。
診断の2つの方向性|「確定診断」と「除外診断」
診断の目的は、すべて同じではありません。状況に応じて、獣医師は次の2つの方向からアプローチを選びます。
① 確定診断
「この病気である」と断定するための診断です。
▶ 目的: 病気を絞り込み、確実に突き止めること
たとえば、貧血の原因を特定するために追加の血液検査や画像検査を行い、裏づけを取っていくケースがこれにあたります。
② 除外診断
命に関わるような重い病気の可能性を、一つずつ“除外”していく診断です。
▶ 目的: 命に関わるリスクを早く取り除き、安全を確保すること
「危険な病気ではない」と確認することも、大切な診断のひとつです。緊急性が高い場合に用いられます。
<「感度」と「特異度」─ 検査の“得意分野”を見極める考え方>
検査にも、それぞれ得意・不得意があります。その特性を理解して使い分けることで、より正確な診断につなげることができます。
・感度が高い検査
病気を「見逃さない」タイプの検査です。
たとえば、少しでも異常があれば反応する“広い網”のようなもので、主に病気を確定するときに役立ちます。
・特異度が高い検査
病気でないものを「間違って陽性としない」タイプの検査です。
言いかえると“間違いを減らす検査”で、危険な病気を除外するときに特に重要です。
たとえば、猫伝染性腹膜炎(FIP)のPCR検査は、特異度が高い検査の代表です。この検査で陰性が出れば「FIPではない可能性が高い」と判断する大きな手がかりになります。
つまり「感度」と「特異度」をうまく組み合わせて検査を選ぶことで、無駄を減らし、より確実に原因へと近づけるのです。かすみペットクリニックでは、こうした検査の“意味”を丁寧にご説明しながら、飼い主様と一緒に診断を進めています。
診断の鍵を握るのは、飼い主様からの「何気ない情報」
実は、診断の精度を大きく左右するのは検査そのものではなく、飼い主様から伺う日常の情報です。私たち獣医師は、診察室でお聞きする何気ない一言やエピソードの中に、病気のヒントを見つけています。
多くの方が「検査をすれば原因がすぐに分かる」と思われがちですが、実際にはその前段階で、どれだけ詳しい情報を共有していただけるかが、診断の精度を大きく左右します。
<小さな変化が大きな手がかりに>
たとえば、次のような日常の気づきが診断の糸口になることがあります。
「最近よく水を飲むようになった」
「ごはんを残すことが増えた」
「歩くスピードがゆっくりになった」
「寝ている時間が長くなった」
こうした“なんとなくの違和感”が、病気を早期に発見するきっかけになることもあります。「こんなこと関係ないかも」と思うような些細なことほど、実は重要なヒントになる場合が少なくありません。
<飼い主様にお願いしたいこと>
正確な診断につなげるために、ぜひ次のような工夫を取り入れてみてください。
・日々の観察メモをつける
食欲・元気・飲水量・排泄の変化などを、簡単に記録しておくだけでも十分です。
・気になる行動はスマートフォンなどで動画に残す
診察時に実際の様子を確認できると、診断の精度が大きく高まります。
<飼い主様と獣医師、二人三脚の診断へ>
診断は、獣医師だけで行うものではありません。飼い主様からの情報と、検査・診察で得られるデータが合わさって、初めて正確な診断にたどり着きます。
当院では、飼い主様との情報共有を何より大切にし、どんな小さな気づきも見逃さず、一緒に最適な答えを見つけていく診療を心がけています。
まとめ
一つひとつの検査には、診断の仮説を検証し、正確な答えへと近づくための明確な意味があります。「飼い主様からの情報」と「獣医師の診断学的な思考」そして「検査結果」——この三つが揃ってこそ、確かな診断にたどり着くことができます。
かすみペットクリニックでは「なぜこの検査が必要なのか」「どうしてこの方針になったのか」をできるだけ分かりやすくご説明し、飼い主様にご納得いただいたうえで治療を進めることを大切にしています。
“検査を受ける側”から“診断に参加するパートナー”へ。私たちは、そんな関係を飼い主様と築きながら、動物たちの健康を守っていきたいと考えています。気になることがあれば、どうぞいつでもご相談ください。
埼玉県狭山市の「かすみペットクリニック」
