「うちの子、最近ずっとかゆがっている」「下痢が続いてなかなか治らない」そんなお悩みを抱えていませんか?
皮膚や消化器の不調が長引く場合、その背後に食物アレルギーが隠れていることがあります。食物アレルギーは、一見して分かりにくく、症状も他の病気と似ているため見逃されやすい疾患のひとつです。
今回は、食物アレルギーの特徴や症状、診断・治療の進め方をわかりやすく解説いたします。
■目次
1.食物アレルギーとは?
2.皮膚に現れるアレルギー症状
3.お腹の不調として出ることも
4.食物アレルギーの診断方法
5.食物アレルギーの治療と向き合い方
6.ご家庭でできる工夫と注意点
7.まとめ|繰り返す不調は「食事の見直し」から
食物アレルギーとは?
本来無害であるはずの食べ物に対して、体の免疫が過剰に反応してしまうのが「食物アレルギー」です。これは「食物不耐性」とは異なり、免疫反応が関与する病気です。
犬や猫の食物アレルギーは、ある特定のタンパク質を長く摂り続けることで、ある日突然症状が現れることがあります。よく知られているアレルゲンには、以下のようなものがあります。
・鶏肉
・牛肉
・小麦
・大豆
・乳製品
・トウモロコシ など
生まれつきではなく、これまで問題なかった食材が突然アレルゲンになることもあるため、注意が必要です。
皮膚に現れるアレルギー症状
犬や猫に共通してよく見られるのが、皮膚トラブルとして現れるケースです。
<よく見られる皮膚症状>
・かゆみ、赤み
・湿疹、脱毛
・足先・顔・お腹を頻繁に舐める、かく
・耳の炎症(外耳炎)
ノミやダニ、環境アレルギーによる症状とも似ているため、見分けがつきにくいのが特徴です。季節を問わず症状が続いたり、薬を使っても一時的にしか改善しない場合は、食事が原因かもしれません。
気になる症状がある場合は、自己判断せず、一度獣医師に相談されることをおすすめします。
お腹の不調として出ることも
皮膚症状に加えて、消化器にも異常が現れることがあります。
<よく見られる消化器症状>
・慢性または繰り返す下痢
・嘔吐
・食欲不振
・お腹の不快感(落ち着きがない、鳴くなど)
「薬を飲んだら良くなるけれど、止めるとまた下痢が再発する」といったパターンは、食物アレルギーの疑いをもつきっかけのひとつです。
特に皮膚と消化器、両方に症状がみられる場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
食物アレルギーの診断方法
食物アレルギーの診断は、一度の検査だけで確定できるものではなく、段階を踏んだ丁寧なアプローチが必要です。
まず重要なのが、詳しい問診と身体検査です。症状がいつから、どのようなタイミングで出ているか、食事内容に変化があったかなど、飼い主様からの情報も大きな手がかりとなります。
また、血液検査やアレルギー検査が行われることもありますが、偽陽性・偽陰性が多く、確定的な診断法としては十分とは言えません。
<食物除去試験>
最も信頼されている診断法は「食物除去試験(エリミネーションダイエット)」です。
これは、疑わしい食材を含まない特別なフードを一定期間(通常6〜8週間)与え、症状が改善するかを確認する方法です。その後、元の食事に一時的に戻して症状が再発するかどうかを確認する「負荷試験」を行うことで、食物アレルギーの診断につながります。
この方法は少し時間がかかり、根気も必要ですが、確実にアレルゲンを見つけるための大切なプロセスです。当院では、飼い主様と二人三脚で進めながら、できる限りストレスの少ない方法をご提案しています。
食物アレルギーの治療と向き合い方
食物アレルギーの根本的な治療法は「原因となる食材を完全に避けること」です。特定されたアレルゲンを含まない食事に切り替えることで、ほとんどの場合、症状を安定させることができます。
<主な対応方法>
愛犬・愛猫の状態や生活環境に応じて、次のような方法を組み合わせて対応していきます。
・除去食療法の実施
特定のアレルゲンを含まない療法食に切り替えるのが基本です。
・新奇タンパク源の活用
ベニソン(鹿肉)・カンガルー・魚など、これまで食べたことのないタンパク源を使用したフードを選びます。
・加水分解タンパク質フードの利用
タンパク質を細かく分解し、アレルギー反応を起こしにくくした療法食も有効です。
・薬によるサポート
一時的に強いかゆみがある場合は、ステロイドや抗ヒスタミンなどで症状を緩和することもあります。ただし、薬は対症療法にすぎず、根本的な解決にはなりません。
・手作り食という選択肢
手作りの除去食も可能ですが、栄養の偏りや調理の手間があるため、必ず獣医師の指導を受けてください。
症状が改善しない場合は、アレルゲンの見直しや、食物アレルギー以外の病気の疑いを再検討する必要があります。
治療には少し時間がかかることもありますが、焦らず一緒に取り組んでいくことが何より大切です。当院でも、フード選びから経過観察まで、しっかりサポートしていますので、ご不安な点はいつでもご相談ください。
ご家庭でできる工夫と注意点
日々の食事管理や生活環境の整備は、アレルギーの予防・コントロールにおいてとても重要です。ちょっとした工夫の積み重ねが、愛犬・愛猫の症状の安定につながります。
<おやつや人間の食べ物に注意しましょう>
おやつやテーブルフードには、アレルゲンとなる食材(鶏肉・乳製品・小麦など)が含まれていることが多く、無意識のうちに症状を悪化させてしまうことがあります。
・成分表示をよく確認する
・原材料がシンプルで、アレルゲンが含まれていないものを選ぶ
・レストランの食べ残しや加工食品などの「人間用の食べ物」は与えない
「ちょっとだけなら…」が、思わぬ悪化のきっかけになることもあります。
<食事を切り替えるときは焦らずゆっくりと>
急な食事の変更は、消化不良や拒食の原因になることがあります。以下のように1〜2週間ほどかけて徐々に切り替えるのが理想です。
・初日は新しいフードを1割程度混ぜる
・徐々に割合を増やし、1〜2週間で完全移行を目指す
・食いつきや体調に変化がないかを毎日チェックする
<多頭飼育の場合はフード管理を徹底>
食物アレルギーのある子がいる場合、他の子が食べているフードを誤って口にしないよう注意が必要です。
・食事の時間や場所を分ける
・食べ残しを放置しない
・全頭に同じアレルゲン除去食を与えるのも一つの方法
<食事日記をつけて獣医師と情報を共有>
何を食べて、どんな症状が出たかを簡単なメモで記録しておくと、診察時にとても役立ちます。
・食べたフードやおやつ、与えた時間
・皮膚の状態、便の回数や性状、嘔吐の有無など
・気になる症状が出た日と内容を記録
アレルギー症状は一進一退することもあるため、定期的に経過を獣医師に報告し、必要に応じて食事内容を見直すことが大切です。
まとめ|繰り返す不調は「食事の見直し」から
犬や猫の食物アレルギーは、完全に治すのが難しい病気ではあるものの、きちんとした診断と食事管理によって症状をコントロールすることは十分に可能です。
「皮膚のかゆみがずっと続く」「下痢が治らない」そんな悩みがあるときは、ただの体質や一時的な不調と片付けず、食物アレルギーの可能性を一度考えてみましょう。
当院では、食物アレルギーに関するご相談にも丁寧に対応しております。診断には時間がかかることもありますが、飼い主様と一緒に、一歩ずつその子に合った食事管理を見つけていきます。「薬を飲む→良くなる→やめると再発する」というサイクルにお悩みの飼い主様も、ぜひ一度ご相談ください。
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