「FIPではないと言われたけれど、本当に大丈夫なのだろうか」
「血液検査では異常がないと言われたけれど、元気がない状態が続いている」
このような不安を感じられたことはありませんか?
猫伝染性腹膜炎(FIP)は、若い猫に多く見られる病気ですが、すべての症例が典型的な経過をたどるわけではありません。血液検査で特徴的な変化が表れることもあれば、目立った異常が少なく、診断が難しいケースもあります。
当院では、開院以来30〜40例ほどのFIPを診療してきました。その経験の中で感じているのは「FIPらしくないFIP」が決して珍しくないということです。
今回は、当院で実際に経験した症例をご紹介しながら、FIPの診断で大切にしている考え方についてお伝えします。


■目次
1.FIPは「典型例」ばかりではない|まず知っておきたい診断の考え方
2.症例から見るFIP|典型例と見逃されやすい症例
3.当院が大切にしていること|一つの数値ではなく全体を見る診断
4.まとめ|「血液検査が大丈夫だった」だけでは安心できないことも
FIPは「典型例」ばかりではない|まず知っておきたい診断の考え方
FIPは、症状の表れ方に幅がある病気です。
典型的な症例では、
・腹水がたまる
・発熱する
・元気や食欲がなくなる
・血液検査で特徴的な変化が見られる
といった所見がそろうことがある一方で、実際の診療では、こうした特徴が十分にそろわないケースも少なくありません。
例えば、血液検査では大きな異常が見られなかったり、腹水が認められなかったりする場合でも、診察やその後の経過からFIPが疑われ、追加検査によって診断に至ることがあります。
<血液検査は「一つの数値」ではなく全体を見ることが大切>
FIPが疑われる場合には、血液検査で血液中のタンパク質の量や体内で炎症が起きているかなどを確認します。例えば、次のような項目が診断の参考になります。
・TP(総タンパク)・Alb(アルブミン):血液中のタンパク質量を確認
・SAA(血清アミロイドA)・α1AG(α1酸性糖タンパク):体の炎症の程度を確認
ただし、これらの数値だけでFIPかどうかを判断することはできません。
そのため、当院では飼い主様から伺う普段の様子や症状の経過、身体検査、血液検査、画像検査、必要に応じたPCR検査など、一つひとつの情報を組み合わせながら総合的に診断を進めています。
症例から見るFIP|典型例と見逃されやすい症例
FIPは、すべての猫で同じような症状や検査結果が表れるわけではありません。ここでは、当院で診療した症例の一部をご紹介します。(※これらの症例は一例であり、すべてのケースで同じ経過をたどるわけではありません)
<症例①|腹水や血液検査からFIPを疑った典型例>
最初にご紹介するのは、3か月齢のスコティッシュフォールドです。来院時には、次のような症状が見られました。
・元気・食欲の低下
・お腹が大きく張っている
・腹水がたまっている
血液検査では、血液中のタンパク質量が低下しており(TP・Albの低下)、体内で強い炎症が起きていることも示されました(SA・α1AGの上昇)。腹水などの症状もあわせて総合的に判断し、FIPが強く疑われたため、PCR検査を実施したところ、血液・腹水ともに陽性となり、FIPと診断しました。
この症例では、約3か月の治療を経て寛解に至っています。
<症例②|血液検査では典型的ではなかった非典型例>
次にご紹介するのは、3か月齢のミックス猫です。来院時の主な症状は、元気がなく、食欲が落ちているというもので、腹水や腹腔内リンパ節の腫れも認められませんでした。
また、血液中のタンパク質量(TP・Alb)や炎症の程度を示す指標(SA・α1AG)に目立った異常は見られず、血液検査だけを見ると、典型的なFIPとは言えない状態でした。
しかし、点滴などの治療を行っても思うように改善せず、「何となく元気が戻らない」「寝ている時間が多い」といった様子が続いていました。
こうした経過も踏まえてFIPの可能性を考え、PCR検査を実施したところ陽性となり、FIPと診断。その後の治療を経て寛解に至った症例です。
このように、FIPでは血液検査だけでは判断が難しいケースもあります。そのため当院では、検査結果だけでなく、症状や経過も含めて総合的に評価することを大切にしています。
<症例③|よだれが出続ける症状からFIPが疑われたケース>
3例目は、2か月齢のブリティッシュショートヘアです。来院時は、食欲や元気がやや低下しており、よだれが出続ける症状が見られました。
診察を進める中で、目の焦点が合いにくい様子も確認されたことから、よだれが出続ける症状についても神経の異常が関係している可能性を考え、神経型のFIPを疑ってPCR検査を実施。検査結果は陽性で、FIPの診断に至りました。
この症例では、一般的なFIPで見られる腹水や消化器症状、腹腔内のリンパ節の異常は目立たず、神経症状が中心でした。この症例も、治療を経て寛解に至っています。
FIPには、このような神経型FIPと呼ばれるタイプもあり、症状の表れ方は一様ではありません。
<症状がなくても見つかるケースも>
当院では、避妊・去勢手術前の術前検査で異常が見つかり、その後の検査でFIPと診断された猫の症例もあります。
この症例では、元気や食欲もあり、明らかな異常は見られませんでした。しかし、血液検査でFIPを疑う異常が認められたため、追加の検査を行った結果、早い段階でFIPが判明しました。もし予定どおり手術を行っていた場合には、その後体調を崩していた可能性も考えられます。
もちろん、このようなケースは多いわけではありません。しかし、症状の有無だけでなく、検査結果やその子の状態を総合的に判断することの大切さを示す症例の一つと言えるでしょう。
当院が大切にしていること|一つの数値ではなく全体を見る診断
ここまでご紹介した症例からも分かるように、FIPはすべての症例が典型的な経過をたどるわけではありません。血液検査で特徴的な変化が表れることもあれば、目立った異常がなくても、FIPが隠れているケースがあります。
だからこそ当院では、血液検査の一部の数値だけで判断することはありません。
まずは飼い主様から普段の様子や症状の経過を丁寧に伺い、そのうえで身体検査や血液検査、画像検査、必要に応じてPCR検査などを組み合わせながら、一つひとつ可能性を整理していきます。
特に「原因がはっきりしない」「検査結果だけでは説明がつかない」と感じる症例では、FIPも鑑別疾患の一つとして念頭に置きながら診察を進めています。そのうえで、診察で得られるさまざまな情報を組み合わせながら、その子にとって最も可能性の高い診断へとつなげていくことを大切にしています。
▼当院で大切にしている「診断の考え方」についてはこちらで詳しく解説しています
動物病院の検査はなぜ多い?納得して治療を受けるための診断のはなし
まとめ|「血液検査が大丈夫だった」だけでは安心できないことも
FIPには、腹水や血液検査の異常がそろう典型的な症例だけでなく、今回ご紹介したように診断が難しい非典型例や、神経症状を主体とする症例もあります。そのため、一部の検査結果だけで判断するのではなく、症状の経過や身体検査、血液検査、画像検査などを総合的に評価することが大切です。
当院では、一つひとつの情報を丁寧に整理しながら、その子に必要な検査を選択し、納得していただける診断につなげられるように心がけています。「血液検査では異常が少ないと言われたけれど、何となく元気が戻らない」「原因が分からないまま症状が続いていて不安」と感じることがありましたら、まずはお気軽にご相談ください。
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