近年、ニュースなどで耳にする機会が増えた「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」。その感染源として注目されているのが、犬や猫にも寄生するマダニです。
愛犬との散歩中に「草むらに入って大丈夫かな?」「薬を使っていれば安心なの?」と不安に感じる飼い主様も多いのではないでしょうか。
今回は、マダニとSFTSについての正しい知識を整理し「完全な予防は難しい」という現実を踏まえたうえで、実践できる予防策や対処法を解説します。


■目次
1.マダニとSFTSの基礎知識|どうして感染するの?
2.実は100%防げない?マダニ予防の限界と現実
3.多層的に守る|段階別マダニ・SFTS予防アプローチ
4.咬まれてしまったら?落ち着いて行う対処と注意点
5.まとめ
マダニとSFTSの基礎知識|どうして感染するの?
マダニは山や草むらだけでなく、公園や住宅地周辺の草地にも潜んでいます。春から秋にかけて活動が活発になり、犬の毛に付着して皮膚に咬みつき、長時間吸血します。
<SFTSとは?>
SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、マダニが媒介するウイルスによって引き起こされる感染症です。犬や猫だけでなく人も感染する「人獣共通感染症」のひとつで、近年国内でも患者が報告されています。
主な症状は、発熱・元気消失・食欲低下・嘔吐や下痢などで、進行すると出血傾向や神経症状が表れることもあります。人・犬・猫のいずれの場合も重症化や死亡例があるため注意が必要です。
<感染経路と注意点>
すべてのマダニがSFTSウイルスを持っているわけではありません。つまり「咬まれたら必ず発症する」というものではありませんが、ウイルスを保有するマダニに咬まれれば感染リスクがあるため、注意が必要です。また、感染した犬や猫の血液や唾液などの体液から、人に感染する可能性も指摘されています。
近年は国内で患者の報告が相次ぎ、ニュースで取り上げられる機会も増えたことで、不安を感じる飼い主様もいらっしゃるかと思います。まずは正しい知識を持ち、どのように備えるかを知っておくことが大切です。
実は100%防げない?マダニ予防の限界と現実
犬のマダニ予防薬(スポットタイプや飲み薬)は、とても効果の高い方法です。咬みついたマダニをしっかり駆除してくれるので、リスクを減らすことができます。ただし、ここで知っておいていただきたいのは、予防薬を使っていても感染の可能性を完全にゼロにはできないという点です。
薬を使っているからと言ってマダニが嚙みつかないわけではありません。マダニが吸血を始めてから初めて薬が効いてきて駆虫されるので、マダニが死ぬまでのわずかな時間に、ウイルスが体内に入ってしまうことがあります。実際に、きちんと予防していたにもかかわらず感染が確認された例も報告されています。
そのため、予防薬だけに頼るのではなく、いくつかの工夫を組み合わせて守っていくことが重要です。
・予防薬の継続使用
・散歩後の体チェックやブラッシング
・日頃の体調変化にいち早く気づくこと
こうした取り組みを積み重ねることが、マダニやSFTSのリスクを減らすうえで大切な習慣となります。
多層的に守る|段階別マダニ・SFTS予防アプローチ
マダニやSFTSのリスクを減らすためには、予防薬に加えて生活の中でできる工夫を取り入れることが大切です。ここでは、飼い主様が取り入れやすい方法を段階別にご紹介します。
<基本予防>
まずは土台となる、定期的な予防薬の使用です。スポットタイプや内服タイプなど、生活スタイルに合わせた薬を毎月続けることで、咬みついたマダニを駆除できます。
「うちの子はあまり外に出ないから大丈夫」と思われる方もいらっしゃいますが、マダニはベランダや庭などの身近な場所にも潜んでいます。さらに、飼い主様の衣服や靴に付着して室内へ持ち込まれることもあるため、予防を続けることが大切です。
<追加予防>
予防薬に加え、住環境や散歩の工夫を取り入れると、さらに効果的です。
・天然ヒバ精油・ヒバオイル
防虫効果があるとされ、散歩前や寝床まわりに使うことで、マダニを寄せつけにくくする効果が期待できます。当院でも取り扱っていますので、ご希望の方はご相談ください。
・ヒノキクリーン
庭や家まわりに散布することで、マダニが近寄りにくい環境に近づけます。より徹底した対策を望まれる方におすすめです。
<早期発見・早期対応>
残念ながらどんなに予防をしていても、100%防ぐことはできません。だからこそ、もしものときは「早く気づき、早く対応する」ことが大切です。
まずは、散歩や外出後にはブラッシングや体をなでる習慣をつけてみましょう。そうすることで、小さなマダニや皮膚の異変にも気づきやすくなります。
また、マダニに咬まれた場面を飼い主様が見ていなくても、体調の変化から疑えることがあります。次のような症状がみられたときは、できるだけ早めに動物病院へご相談ください。
・発熱
・元気がない/動きが鈍い
・食欲の低下
・出血(歯ぐきや皮膚など)
・嘔吐や下痢
こうした日常の工夫を少しずつ積み重ねることが、愛犬をマダニやSFTSから守るための大切な習慣となります。
咬まれてしまったら?落ち着いて行う対処と注意点
犬にマダニが付着しているのを見つけても、まずは慌てずに行動することが大切です。誤った処置は、かえって危険につながることがあります。
・無理に引き抜かない
マダニをピンセットなどで無理に取り除こうとすると、口や頭部が皮膚に残ってしまい、炎症や感染の原因になります。ご家庭では処置を試みず、動物病院で専用の器具を使って安全に除去してもらいましょう。
・体調の変化に注意する
動物病院で除去してもらった後も、しばらくは体調をよく観察してください。少しでも気になる変化がみられた場合は、迷わず動物病院に相談しましょう。
・人への感染に注意
SFTSは人にも感染するリスクがある病気です。感染が疑われる動物に触れるときには、使い捨ての手袋やタオルを使い、直接の接触を避けるようにしましょう。飼い主様ご自身の健康を守るためにも、冷静な対応を心がけることが大切です。
まとめ
マダニやSFTSの話題に不安を感じる飼い主様も多いかと思います。確かに「完全な予防」は難しいものの、予防薬の継続、散歩後のチェック、体調の観察など、日常の工夫を積み重ねることでリスクを大きく減らすことができます。
そして、もし咬まれてしまったり体調の変化に気づいたりしたときは、早めに動物病院へご相談ください。正しい知識と冷静な対応が、愛犬と飼い主様ご自身を守ることにつながります。
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